亥之吉が、今夜佐貫の屋敷に泊まることは、三太郎の弟子佐助を走らせて、佐貫家の客人がお帰りになったことを確認したうえに知らせた。主人佐貫鷹之助ある。鷹之助の母小夜も、亥之吉に鷹之助がお世話になった礼が言いたいと心待ちにしている。

   「亥之吉さん、三太は元気にしていますか?」
 三太と同じ「鷹塾」の塾生、源太である。源太は鷹之助の弟子として、鷹之助の付き人役をしている。今日も二人は藩校明倫堂から帰ってきたところであった。
   「元気だっせ、元気過ぎて手に負えんこともおます」
   「それは良かった、いつか会いたいです」
   「そうだすな、この旅の伴をさせたら良かったのだすが、三太は強くなったので、うちの用心棒でもあるのだす」
   「そうですか、それは頼もしい」
 鷹之助が挨拶に出てきた。
   「ようこそいらっしゃいました、三太がお世話になっています」
   「三太は、先生に教わったことを常に思い出して守っとります」
   「そうですか、お恥ずかしい限りです、亥之吉さんの仰ることもよく聞いていますか?」
   「へえ、それが…」
 亥之吉はそこでクシャミを一つした。
   「三太だすわ、三太がわたいの悪口を言っているみたいだす」
 猫爺の連続小説「三太と亥之吉」の登場人物で、大坂(今の大阪」で生まれ育ったのは、三太と亥之吉の他、亥之吉の女房お絹である。亥之吉の息子辰吉は、江戸生まれの江戸育ちだが、両親の影響で大坂言葉気味である。
 この三人の使う言葉は、江戸時代ということで誇張しているために、決して現在の子供や若者が使う言葉ではない。
 
   「わいは、三太だす」

 こんな風に喋ることはない。現代の若者は「おれは三太です」と喋る。「これのどこが大阪弁やねん」と、思われるかも知れないが、イントネーションが標準言葉とは違うのだ。

 仮に言葉の音の高さを  普通のトーンを「1」 アクセントを「3」 その中間を「2」としょう。


 ですから、文字で大阪弁を書いても、ほんとうの大阪弁ではない。そこで猫爺は、いわゆる大阪弁と船場言葉と、京都言葉、神戸言葉を混ぜこぜにして、大袈裟にすることで江戸時代の大坂言葉の雰囲気をだしているつもりである。

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